生まれ育った明石の浜で一番の漁師になるという夢と正面から向き合いながらも、一方で天国の母に対する子供らしい思いをのぞかせることによって読む者を作品の世界に引き込み、10年後どんな魅力的な青年になっているか出会ってみたくなる作品です。
リズム感のある書きぶりから、朝早くから夜遅くまでひとりで沖に出る父のたくましさや母親の分まで家事をこなそうと努力する父としての誇りを肌で感じながら生活している様子が自然と伝わってきます。また、父に対する思いやりあふれる表現や敬愛する表現からは、感性の豊かさが感じられ、結びの「おれはぜったい漁師になるから、天国から見ていてください。お母さん。」という呼びかけは、読み手に夢を実現しようとする強い意志を伝え、構成上もたいへん効果的な役割を果たしています。
いつか父を支えて一人前の漁師として船を出し、明石の美しく豊かな海を守る担い手として活躍していることを願っています。
海=カニ。食用のカニかと思いきや、一年前から飼っているカニのことだったという冒頭部からこの作文に引き込まれました。カニをきっかけに、カニを通して海とつながった加藤さん。
海岸に生息する生き物が魚やカニだけではなく、鳥やチョウ、植物にまで至ることへの気付き。海辺に生える雑草が、アブラナやカリフラワーなど、よく知っている植物に似ていることの新発見。その興味の範囲は空にまで広がっています。
プランターにきちんと収まっている花や海辺でのびのびと育つ植物に、自分の人生観も併せ見て比較したのだろうか。そんな想像をさせられたのは加藤さんの、言葉に息吹を与えるような表現力、情景が目に浮かぶような文章力によるものだと思います。
カニのために、そのカニを見つけた海まで交換用の水を取りに行くところにも、生き物を大切に育てているという深い愛情を感じました。加藤さんがこれからも海、自然に関心をもち、様々な生き物に目を向けて豊かな生活を送ることを願ってやみません。